日本とフランスのリテールベーカリー事情

日本における店舗数の減少傾向

日本のリテールベーカリーは、長期的にみると一貫して微減の傾向を続けています。背景には、後継者難や人手不足、そして地方における人口減少が重なり、個人経営の店舗が閉店を余儀なくされるケースが多いことがあります。特に地方都市や郊外では、需要の縮小と知名度の不足が相まって淘汰が進みやすいのが現状です。一方で「パンを買う場所」は増えており、コンビニエンスストアやスーパーの店内製パンコーナーがシェアを拡大しています。そのため、市場全体としての売上はコロナ禍を経て持ち直しており、店舗数の減少が必ずしも市場規模の縮小を意味しているわけではありません。

コストと需要の変化

原材料コストの面では、小麦の政府売渡価格が高止まりしていましたが、2024年以降は引き下げの流れが続いており、圧迫感はやや和らぎつつあります。エネルギー価格もピークを過ぎた感があり、経営環境は改善に向かいつつあります。消費者の需要は多様化しており、菓子パンやハード系食事パンといったカテゴリーの分極化、健康志向による全粒粉や低糖商品の人気、さらに「焼きたて」の体験価値や冷凍・ECを活用した取り寄せ需要が伸びています。

今後の展望

日本のリテールベーカリーが今後生き残るためには、いくつかの方向性が考えられます。第一に、省人化オペレーションの導入です。ベイクオフ方式やセントラルキッチンでの仕込みと店舗での最終焼成を組み合わせることで効率化が可能です。第二に、高付加価値商品の開発です。地域の小麦や独自の発酵種を使った限定商品、職人の技術を前面に出したストーリー性のある商品は、価格競争から距離を取る有効な手段となります。さらに、惣菜やコーヒーとの併売による客単価アップ、ECやサブスクを含めた複数チャネルでの収益確保も重要です。店舗数は減少しても、1店舗あたりの生産性を高めることで市場全体を支えることが可能でしょう。

フランスのリテールベーカリー事情との比較

フランスには約3万3千のアルチザン系ブーランジュリーが存在し、地域社会にとって欠かせないインフラとなっています。パンが日常食として文化に根付いているため、小規模店の存在意義は非常に大きく、政府や社会もそれを支える姿勢を持っています。しかし、2022年から2023年にかけてのエネルギー価格高騰は大きな打撃となり、政府による緊急支援策が講じられる事態もありました。また、大手チェーンやスーパーが低価格ベーカリーを展開し、競争が激化している点は日本と共通しています。ただし、フランスではパンの社会的価値が強固に位置付けられているため、小規模店が地域に根付く力は日本より強いと言えます。

まとめ

日本のリテールベーカリーは、数の縮小という現実を受け止めつつ、効率化と高付加価値化、販売チャネルの多様化によって持続可能性を確保していく必要があります。フランスのようにパンが「文化」として社会に支えられる構造が薄い日本では、差別化と体験価値を軸に、消費者からの指名買いを生むことが今後の鍵となるでしょう。